恋のはじまりは曖昧で
ここで突っ立っていても仕方がないので、おとなしく料理でも食べておこう。
まずは、大好きなローストビーフを会場の隅で食べる。
ん!美味しい。
そのあともひとり黙々と食べ、デザートのチーズケーキをフォークで口に運んだ時、少し離れた場所にいた田中主任が視界に入った。
さっきまで男性の輪の中にいたのに、今は鮮やかなワインレッドのワンピースを着た女性と二人きりで話をしている。
その女性は頬を染め、手を口に添えて微笑んでいる。
上品そうだしスタイルもよく、華やかなオーラをまとい、パッと見で綺麗な人だと分かる。
田中主任と並んでいるとお似合いだ。
それを見て、モヤモヤし胸が締め付けられた。
これ以上、あの光景を見ていたくなくて、私は静かに会場の外に出た。
ロビーにあるソファーに座り、中庭を眺める。
そこにはライトアップされた噴水があり、幻想的な雰囲気を醸し出している。
はぁ、と息を吐き目を閉じるとさっきの光景が脳裏に浮かんできた。
今までは田中主任と女の人が話をしていても特に気に留めていなかったのに、田中主任に好意を抱いていると自覚して初めて感じる嫌な気持ち。
さっきのは明らかに嫉妬だ。
あー、と頭を掻きむしりたくなる。