恋のはじまりは曖昧で

だけど、実際今日は私なりにお洒落をしたというか、髪の毛を片側だけ編み込み、逆サイドでひとまとめにしてシュシュをつけているので崩す訳にはいかない。

グッと堪え、行き場のない感情を持て余していたら、私の名前を呼ぶ声が耳に届いた。

「高瀬さん、だよね。こんなところで何しているの?」

私に声をかけてきたのは、先ほど名刺交換した真壁和馬さん。
しかも、私が手がプルプル震えて名刺を渡した取引先の人と一緒にいた部下の営業の男性だ。
電話では何回か話したことがある。

話したと言っても電話の取り次ぎとかで話し、名前を知っている程度で今日が初対面だ。
見たところ、年齢は二十代半ばぐらいで気さくな感じ。

返事をしようと立ち上がろうとしたら、そのままでいいよと制止され座ったまま答えた。

「ちょっと休憩してました」

「そうなんだね。人もこんなに多かったら疲れるよね」

「あ、いえ……。それで、真壁さんはどうしてここに?」

「俺も休憩しに来たんだっていうのは口実で、君ともっと話がしてみたくて」

爽やかな笑顔を向けてきた。

「あの、私は真壁さんと仕事のことでお話しできることはないと思うんですけど」

私は事務員で営業じゃないから仕事の話なんて出来る訳がない。
すると、真壁さんはキョトンとした表情をした後、笑い出した。
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