恋のはじまりは曖昧で

「面白いことを言うね。俺も高瀬さんと仕事の話をするつもりなんてないよ」

「え、そうなんですか?」

「そうだよ。可愛い女の子を前にして仕事の話をするわけないでしょ。高瀬さんて天然なの?俺は君とプライベートな話をしたいんだけど」

真壁さんは私の隣へ腰を下ろす。
プライベートな話って?っていうか、距離が近い気がするんだけど気のせいかな。
少し動くと腕が触れてしまいそうだ。

「さっそくだけど、紗彩ちゃんって呼んでもいい?」

「それは別に構いませんけど……」

多少の抵抗というか本当は嫌だったけど、一応、取引業者の人だしあまり邪険にしては今後の仕事に差し支えるかもと考えた結果だ。

「ねぇ、紗彩ちゃんは休みの日は何をしているの?」

「休みの日ですか?」

なぜか急に合コンみたいなノリで話しかけられて身構えてしまう。
合コンは前に一度だけ行ったことがある。
その時に参加していた馴れ馴れしい男の人に苦手意識が芽生え、早く終われ!とずっと思っていたんだよな。

渋々答えようとしたら、背後から声がして振り返った。

「高瀬さん、遅くなってごめん。会場にいないから探したよ」

声の主は田中主任だった。
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