恋のはじまりは曖昧で

「勝手に移動してすみません。ちょっと休憩しようと思ったので」

私は助かったとばかりに立ち上がって田中主任の元へ行く。

「いや、謝らなくていいよ。俺が戻ってくるのが遅かったから。ところで、ユーワイエーの真壁くんじゃないか。こんなところで油を売ってていいのか?」

私の背後に視線を向け、声をかけられた真壁さんは訳が分からないといったような顔をする。

「お宅の上司、結構酒を飲んでいたみたいだけど大丈夫?」

「ホントですか?社長から飲ませすぎないようにって言われていたのに」

田中主任の言葉を聞いた途端、焦った表情に変わっていく。
真壁さんの上司は酒癖が悪いってことなんだろうか。

「そろそろ止めた方がいいと思うけど」

「分かりました。すぐに行きます。教えてくれてありがとうございました。失礼します」

「いや」

「紗彩ちゃん、じゃあまた」

真壁さんは手をあげ、急ぎ足で会場に向かっていった。
それを見て田中主任は「また、なんてないけどな」と聞き取れないぐらい小さな声で呟き前髪を掻き上げた。

田中主任が私を探しに来てくれたってことは、この後、パーティー会場に戻るんだろうか。
そのことを聞こうとした時、聞き慣れた声がした。

「紗彩、こんなところで何してんだ?」

怪訝そうな表情の海斗がこちらに向かって歩いてきた。
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