恋のはじまりは曖昧で
「え、どうして海斗が?」
驚いて数回瞬きする。
まさか、こんな場所で会うなんて思ってもみなかった。
「それはこっちのセリフだよ。俺は親父の付添いでパーティーに参加してんだよ。で、お前は?」
「私は仕事で上司の人と一緒に来てて」
チラリと隣の田中主任を見る。
この場合、私が紹介した方がいいのかなと思っていたら、海斗は鋭い表情で田中主任を見た。
「この前はどうも」
「こんばんは。花山株式会社の田中です」
そう言って名刺入れから一枚名刺を取り出し、海斗へ向け差し出した。
「杉村電機の杉村です」
海斗も慣れた手つきで田中主任と名刺交換をする。
海斗のお父さんは杉村電機の社長だ。
海斗は次期社長だから付添いでパーティーに来ていたのか。
さすが、御曹司。
「そういや、風邪は治ったみたいだな」
海斗は私の方に視線を向ける。
「うん。お陰さまで。あの時はありがとね」
「別に礼を言われるようなことはしてねぇよ。当たり前のことをしただけだし」
そう言って、なぜか田中主任に視線を向ける。
海斗の視線が、なぜか敵意むき出しに見えるのは私の気のせいだろうか。
田中主任も目を逸らすことなく海斗を見ている。
私は気まずくなり、どうしようか思案していると。
「海斗さん、こちらにいらっしゃったんですか?社長がお呼びですよ」
グレーのスーツ姿の女性がやってきた。