恋のはじまりは曖昧で
前々から思っていたけど、田中主任の髪の毛って柔らかそう。
私の髪の毛は硬いからなぁ。
ちょっと触ってみたいかも……って、邪なことを考えている場合じゃない。
この後、出掛けるって言ってたから早めに見積書を仕上げなきゃ。
この前、教えてもらった通りにすればちゃんと出来るはず。
見積書のテンプレートがあるので、それに数字など間違いがないよう注意深く見ながら入力していく。
それが終わると、保存してプリントアウトした見積書をもう一度見直す。
よし、完璧だ。
「田中主任、出来ました」
主任の席まで行き、出来立てホヤホヤの見積書を渡す。
「お、早いね。どれどれ」
それを受け取り、チェックし始める。
ドキドキしながらその様子を見つめていた。
「オッケー、ちゃんと出来てるよ。ありがと」
田中主任は左手でオッケーサインを出して微笑んだ。
間違いなく出来ていたことにホッと胸を撫で下ろす。
少しでも役に立てたということが嬉しくて、つい顔が綻ぶ。
「あ、それとこの納品書を日付順に纏めておいてくれる?」
「分かりました」
「もう出掛けるから、終わったら俺の机の上に置いといて」
田中主任はさっきの見積書をファイルに挟み、そのまま鞄の中に入れた。
私は大量の納品書の束を受け取り、自分の席に戻る。
机の上をひとまず片付けて、納品書を日付順に並べていく。