恋のはじまりは曖昧で
二十代後半ぐらいだろうか、ショートボブで目鼻立ちのハッキリした顔。
誰だろう?
間違いなく海斗の会社の人なんだろうけど。
「あー、了解です」
そう言ってポリポリと頭をかいた。
その女性と海斗を交互に見ていたら、私の視線に気づいた海斗が紹介を始めた。
「彼女は親父の秘書の松方優香さん」
「初めまして。松方と申します」
丁寧に頭を下げる。
その立ち居振る舞いは流石秘書というべきか、日頃からちゃんとしているんだろうなというのが感じとれる。
「で、こっちが俺の幼なじみの高瀬紗彩」
「は、初めまして。高瀬です」
慌てて挨拶をして頭を下げた。
松方さんはニコリと微笑む。
「それでは海斗さん、行きましょう」
パーティー会場に戻るように促す。
「あー、また挨拶回りか……。それじゃ、紗彩、また連絡するわ」
海斗はため息をつくと、首をコキコキと鳴らしながら歩き出す。
松方さんは「失礼します」と会釈し背を向け、海斗の後を追った。
「高瀬さん、俺らは帰ろうか」
そう言って私の手首を掴み歩き出す。
「え、いいんですか?」
「あぁ。もう挨拶も済ませたし、あとは適当に食べて飲んで各自解散だから」
田中主任の強引な行動に戸惑いを隠せない。
一刻も早くこの場から離れたいというような雰囲気を感じる。
何か嫌なことでもあったのだろうか。
私は手を引かれるままについて行った。