恋のはじまりは曖昧で
通じ合う気持ち
田中主任が触れている手が熱い。
さっきは手首を掴まれていたのに、なぜか今は手を繋いでいる。
手汗をかいてきて、このままだとちょっとヤバいことになりそうだ。
一刻も早く解放してもらおうと、思い切って口を開いた。
「あの、田中主任。手が……」
「あ、ごめん」
そう言って手を離す。
私は気づかれないように服で手の汗を拭いた。
「いえ。あの、今日はお疲れさまでした」
「高瀬さんもお疲れたよね」
「少しだけ……。正直、こんなにたくさんの人が集まるパーティーに参加したのは初めてだったので緊張しました」
話しながらエントランスを抜け、ホテルから出る。
会場となったホテルは駅前にあるので私はこのまま駅へ向かい、電車で帰ればいい。
会社から田中主任の車でここまで来たから、主任はそのまま車で帰るんだろう。
何気なく隣を見ると、ちょうど主任も私に視線を向けてきた。
目が合ってしまい、ドクンと心臓が跳ねる。
「家まで送るよ」
「ありがとうございます。でも、電車で帰るから大丈夫です。駅もすぐそこなので」
「遠慮しなくていいよ。どうせ同じ方面に帰るんだから」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ここまで言ってもらって断るのは失礼だと思い、送ってもらうことにした。
そのままホテルの駐車場に向かい、停めてあった田中主任の車に乗り込んだ。