恋のはじまりは曖昧で
「あー。まぁ、適当に」
田中主任の口ぶりから、そんなに食べていないのかも知れない。
でも、そのことについて私が口を挟むのもどうかと思うし。
あれこれ考えていたら、言いにくそうに田中主任が口を開く。
「あのさ、さっき会場で会った杉村くんのことだけど」
「え?」
いきなり海斗のことを言われて驚き、運転席の田中主任に視線を向けた。
ちょうど信号機が赤に変わり、車が停まるとチラリと私を見る。
「この前、高瀬さんの部屋にいただろ」
「はい」
「さっきも親しく話していたみたいだけど、高瀬さんとどういう関係なんだ?」
真剣な表情で聞いてくる。
「彼は私の幼なじみです。幼稚園からずっと一緒だから、私にとっては家族みたいな存在で」
田中主任がお見舞いに来てくれた日に言うはずだった言葉。
あの時は、途中で遮られて言えなかったので、ようやく伝えれたことにひとまずホッとする。
やっぱり、自分の力ではこの話の流れにもっていけれなかったけど。
「幼なじみ……。そっか」
田中主任は安堵したように息を吐き、確認するように聞いてくる。
「じゃあ、彼は高瀬さんの彼氏とかじゃないんだな」
「違います。それに、私は彼氏はいないと言ったと思うんですけど」
ちょっと拗ね気味に言ってしまった。
私の言ったことを信じてもらえていなかったみたいだったから。