恋のはじまりは曖昧で
「あ、そうだったよな。ごめん」
バツの悪そうな顔で謝る。
そして、信号が青になり再び車が動き出し、見慣れた景色が視界に入る。
「いえ。私、田中主任には誤解されたくなかったので……」
思っていたことを正直に話した。
もしかしたらと思っていたけど、やっぱり海斗のことを彼氏だと思っていたんだ。
そりゃ、病人の一人暮らしの部屋に看病している男の人がいるのを見たら勘違いされても仕方ない。
私だって、田中主任の部屋に女の人がいたら彼女なんだろうと思ってしまうし。
これで解決したと安堵していたんだけど。
「それはどうして?」
「え?」
「どうして俺には誤解されたくなかったんだ?」
ゲッ、まさかそこを突っ込まれるとは思わなかった。
スルーしてくれればよかったのに……と恨み節。
言ってしまったことを今さら取り消す訳にはいかない。
頭の中でグルグルと考えていたら、私のマンションの駐車場に着いていた。
出来ることなら、このまま車から降りたい気分だ。
「えっと、それは……」
「それは?」
田中主任は追求の手を緩めてくれない。
どうして誤解されたくないのか、なんて理由は一つしかない。
それは、私が田中主任のことが好きだから。
でも、そのことを言う勇気なんて持ち合わせていない。