恋のはじまりは曖昧で
「えっと、これは三日で十日と……」
「おつかれー、何やってんの?」
出先から戻ってきた浅村くんが声をかけてきた。
「納品書を日付順にまとめてんの」
「ふぅん。それよりさぁ、さっき課長と同行してたんだ。初めて他の会社の人との打ち合わせに参加したけど、めっちゃ緊張した。やっぱり独特な雰囲気があるんだよ。ピンと張りつめた空気っていうの?それを肌で感じて、俺って仕事してるって思ったんだよ。あ、名刺交換もだいぶ慣れてきたしな」
浅村くんの話を右から左に聞き流し、放置していた。
「おい、高瀬。無視すんなよ」
流石に何も返事しない私に痺れを切らしたのか文句を言ってくる。
「あのさぁ、私も仕事してんだからあまり話しかけてこないでよ。集中できないからせめて休憩中にして」
「何だよ、冷たいヤツだな」
浅村くんは口を尖らせていると、鋭い声が飛んできた。
「浅村、さっき打ち合わせの時に話したこと、今すぐ纏めて報告書を提出しろ」
「えっ」
「えっ、じゃねぇよ。お前、遊びに来てる訳じゃないだろ。どういう話をしたのか思い出して書き出してみろ。それが出来るまで今日は帰れないぞ」
「はいっ、分かりました!」
河野課長に言われ、浅村くんは慌ててパソコンを起動させた。