恋のはじまりは曖昧で
それは私も同じだ。
初めてちゃんと人を好きになり、その人と両想いになれた。
片想いのままや失恋してしまうことがたくさんあるこの世の中で、好きな人が私のことを好きになってくれるなんてすごく幸せだと感じる。
こんな奇跡のようなことはないよね。
「はい」
私が返事をすると、田中主任は優しい眼差しで見つめてくる。
ラグの上に置いていた私の手に田中主任の手が重なり、そちらに視線を向ける。
そんなことに気を取られていたら、徐々に田中主任の顔が近付いてきていた。
これってもしかして……。
ドキッと心臓が跳ねる。
条件反射でギュッと目を閉じると、唇に柔らかな感触があった。
でも、それもすぐに離れてしまう。
目を開けると、間近に田中主任の顔がある。
初めてキスを経験し、顔からボッと火が出そうなほど熱くなっている。
恥ずかしくて目のやり場に困り、俯いた。
そして自分の唇に手で触れてみる。
この前、額に感じた田中主任の唇とは違う気がする。
「ごめん、嫌だった?」
私の耳に田中主任の謝罪の言葉が聞こえ、顔を上げて首を左右に振る。
嫌だったんじゃない。
「違います。あの、初めてだったので……」
羞恥でどうにかなりそうだったけど、小さな声で何とか誤解を解こうとした。