恋のはじまりは曖昧で
「初めてって、キスが?」
驚いたように言われ、私はコクンと頷く。
この年でキスも初めてとかって引かれるかも知れない。
でも、本当の事だから。
田中主任は「そっか」と言って、私の頬に優しく手を添える。
「もう一回キスしたいんだけど、いい?」
はい、と返事をするのも何か恥ずかしくて無言で頷いた。
顎に手をかけて持ち上げられ、上を向かされる。
私はゴクンと生唾をのみ込んだ。
心臓が飛び出しそうなぐらいドクドクと動いている。
そして、ゆっくりと田中主任と唇が重なった。
温かな唇が何度も触れ合う。
さっきの軽く触れた一瞬だけのキスとは違い、官能の扉を開けられていくような感覚がした。
「んっ」
鼻から抜けたような甘い声が出てしまう。
それが、自分のものだと気付くとこの上なく恥ずかしい。
緩く開いた唇の隙間から舌が侵入してきて深いキスになる。
息つく暇も与えられない、熱く激しいキスに田中主任のシャツをギュッと握った。
貪るようなキスに下手くそなりに必死に応えようとする。
息苦しさと甘さを含んだキスに頭が痺れてくる。
舌が絡み合う水音も耳に届き、ふわふわと夢の中にいるような感覚に陥った。
初めてのキスは、身体の芯から蕩けるような幸せな気分になれるものだった。