恋のはじまりは曖昧で
海斗の想いと噂話

出社してメールチェックを済ませ、一日の段取りをなんとなく頭の中で組み立てた。

いつものように運輸部から届いた出荷明細をもとにパソコンに入力していく。
それが終わると、今日は営業の人から渡された売上伝票の入力に取り掛かる。

変わらない日常。
だけど、ひとつ変わったことがある。

「高瀬さん、見積書は出来た?」

「はい。出来ました」

先ほど、プリントアウトした見積書を手に田中主任の元へ行く。

「確認お願いします」

見積書を渡す時、一瞬だけど指が触れた。
それだけで、私の身体はピクリと反応する。

「了解」

田中主任はそれを受け取り、何事もなかったかのように振る舞う。
いや、違う。
さっき、少しだけ口角が上がっていたのを私は見逃さなかった。
もしかして、わざと私の手に触れたんだろうか。

でも、それを問いただすことなんて出来なくて私一人、ドキドキしている。
田中主任にこんなイジワルな一面があったのかと気づかされる。
私は軽く頭を下げ、自分の席へ戻った。

何が変わったかというと、私と田中主任が恋人同士になったこと。
付き合って二週間ぐらい経ったけど、田中主任はさっきのようにさり気なくスキンシップをしてくる。
だけど、恋愛スキルが皆無な私はいちいち反応してしまう。
田中主任は、そんな私の反応を楽しんでいるような気がしてならないけど。
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