恋のはじまりは曖昧で
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「紗彩、見たよ。社内報」
週の終わりの金曜日。
今日一日頑張れば明日は休みで、気分的には少しだけ浮かれている朝。
偶然、会社のエントランスで会った薫がニヤニヤ笑う。
「え、見たの?」
「うん。インタビュー記事も隅から隅まで読んじゃった」
「そこまで念入りに読まなくてもいいのに」
「写真も可愛く撮れてたじゃん」
ホラ、と言いながらバッグから社内報を取り出した。
私が写っているページに付箋をつけていたみたいで、すぐに開いて見せてくる。
「ちょっとやめてよ。でも、あの写真を社内の人が見るんだと思ったら恥ずかしくて堪らないよ。あー、もういいから早くしまって」
社内報をさっさとバッグにしまうように促しながら、ふと写真撮影した時のことを思い出した。
それは、約一か月前のこと―――。
「高瀬さん、緊張しないでいいから」
そう声をかけられるけど、そんなの無理だ。
緊張しない訳がない。
「何だよ、もっとリラックスしろよ。お前、いつも以上に顔が怖いぞ。鬼じゃないんだから」
呑気な声を出す浅村くんに若干の苛立ちを覚える。
顔が怖いとか余計ですけど。
「そうそう、彼の言う通りだよ。はい、ニッコリ笑ってー」
ニッコリ笑ってと言われても……。
カメラマンに追い打ちをかけられ、頬を引きつらせぎこちない笑みを浮かべてしまう。