恋のはじまりは曖昧で
私はその言葉に胸がチクリと痛んだ。
過去のこととはいえ、やっぱり耳にするのは嫌な気持ちになる。
「マジで勘弁してくださいよ。俺は心を入れ替えたんですから」
「今はね。でも、この騒ぎはしばらくは続きそうだから浅村くん大変かもね」
「大丈夫っす。俺は彼女一筋なんで!」
キッパリと言い放つ。
その言葉に弥生さんは頬を赤らめながらも、ホッとしたように小さく笑みを浮かべていた。
浅村くんは弥生さんに向けて安心して欲しいアピールをしているみたいだ。
こういうところは男前だなと思う。
「じゃあ、紗彩も気を付けた方がいいんじゃない?」
「私ですか?」
「そう。逆パターンもあるってこと」
三浦さんに話を振られ、キョトンとしてしまう。
どうして私も気を付けた方がいんだろう。
「だから、浅村くんが女子社員に囲まれたってことは、紗彩も男性社員に言い寄られることもあるんじゃない?」
「それはないですよ。自慢じゃないですけど、今までモテたことないですから」
自信満々に答える。
だって、二週間前までは生まれてからこの年になるまで彼氏がいなかったし。
「これだから無自覚ちゃんは困るのよ」
そう言って三浦さんはため息をつく。
「とにかく、紗彩も周りには気を付けなってこと。分かった?」
「……はい」
よく分からないけど、とりあえず頷いた。