恋のはじまりは曖昧で

「うん、幸せだよ」

海斗の想いを聞いた後でこんなことを言うのもどうなんだろうと思った。
だけど、嘘をつくなんて出来ない。
真っ直ぐに気持ちを伝えてくれた海斗に誠実でありたい。
田中主任と気持ちが通じ合えたことは、本当に幸せなことだから私は正直に答えた。

「ならいい。もし、アイツに泣かされたりしたらいつでも俺んとこに来いよ。文句言いに行ってやるから。んで、アイツから奪ってやる!俺はお前の一番の味方で幼なじみだからな」

頭をクシャリと撫でる。

「うん。ありがとね、海斗」

奪ってやる発言はどうかと思ったけど、海斗の気持ちが嬉しくて自然と涙が出る。
鼻をすすっていると、海斗はギョッとする。

「おい、泣くなよ。俺が泣かしたみたいだろ。紗彩はバカみたいに笑ってればいいんだよ」

そう言ってポケットからハンカチを取り出し、私の顔に押し付ける。
いや、実際に海斗の優しさに感動しての涙だから仕方ないでしょ。
零れてくる涙を拭きながら、海斗に心から感謝した。

こんな私を好きになってくれて本当にありがとう。

帰りに、車で送ると言われたけど、その申し出は断った。
田中主任と付き合っているのに、いくら幼なじみとはいえ男の人と二人きりで車に乗れないと思ったんだ。
海斗も私の気持ちを察してくれたのか、気を付けて帰れよと見送ってくれた。
< 201 / 270 >

この作品をシェア

pagetop