恋のはじまりは曖昧で

「西野さんに高瀬さん、まだ残ってたのか?」

会議室から出てきた原田部長が驚いた表情で私たちを見て、それに答えるように弥生さんが口を開く。

「はい。今日済ませておきたい伝票があったので」

急遽、十八時半にお客さんが来ることになったけど当番の片岡さんはすでに仕事を終えて帰宅していた。
たまたま居合わせた私と弥生さんが人数分のコーヒーを淹れて会議室に運んだ。

その時に原田部長から「遅くなるから、もう帰っていいよ」と言われた。
だけど、弥生さんも私も自分の仕事が残っていたし最初からあと一時間ぐらいは残業しようと思っていた。

「そうか。お疲れさん」

「お客さん帰られたんですよね」

「あぁ。会議室の片付けは倉井と浅村がやっているから」

「いえ、私たちがやります。そのために残っていたようなものなので。紗彩ちゃん、行こう」

弥生さんと会議室に行き、片付けをしてくれていた倉井さんと浅村くんと交代する。

「倉井さんと浅村くんありがとう。あとは私たちがやります」

「西野さんたち、まだ残っていたの?」

「はい。だから、片づけはこちらでやります」

「ありがとう。じゃあ、お願いしようかな」

倉井さんはそう言って浅村くんと会議室を出て行った。
コーヒーカップの片づけを弥生さんが、部屋の掃除や換気を私が担当し、協力して終わらせた。
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