恋のはじまりは曖昧で
「綺麗だな」
背後から田中主任の声が聞こえ、然り気無く隣に並んで私の右手を握ってきた。
その瞬間、ドキッとし身体が震えた。
まさか、会社で手を繋がれるとは思っていなかったので驚いた。
チラリと田中主任の方を見ると、軽くパニックになっている私をよそに口元に弧を描いていた。
もしかして楽しんでいる?
誰かに見られたらどうしようと、私は一人焦っていた。
周りが気になってキョロキョロしていると、田中主任が顔を寄せてきて耳もとで囁く。
「フロアは暗いし、みんな花火に夢中で誰も見ていないから大丈夫。それにここは隅で死角だから気づかれないよ」
やけに自信たっぷりな言葉に、本当にそうなのかもと納得している私がいた。
どさくさ紛れだったけど、田中主任と手を繋いで花火を見れていることが嬉しかった。
花火マジックで完全に浮かれてしまった私は、昼間に聞いた話のことを忘れるくらい幸せに浸っていた。