恋のはじまりは曖昧で

大盛りのメニューもあり、男子学生も大満足のお店だ。
白字で小山田と書いてある紺色ののれんをくぐり、木製の扉を開けた。

「いらっしゃい」

元気のいいおじちゃんの声に迎えられた。
そして、厨房の中から私を見て笑顔になる。

「お、紗彩じゃねぇか。ちょっと見ねぇうちに大人っぽくなったな。海斗はもう来てるぞ」

「え、そう?大して変わってないと思うんだけど。おじちゃん、久しぶり!元気そうだね」

「おう、お陰様でな。もう海斗の注文は聞いてんだけど、紗彩は」

「野菜炒め定食」

「お前も相変わらず同じメニューだな」

がははと豪快に笑う。
おじちゃん、笑い方も全然変わってないや。

「もしかして海斗はレバニラ?」

「そういうことだ」

おじちゃんはフライパンに材料を入れ調理を始めた。

「紗彩、こっちだ」

名前を呼ばれ、店の奥のテーブル席に海斗が座っていた。

店内はカウンターが十席、四人掛けのテーブルが五つある。
お世辞にも綺麗とは言えない店内だけど居心地がよく、ホームに帰ってきた気がする。

ちょうど夕食時。
学生の時は昼間に食べに来ていたので、スーツ姿のサラリーマンで賑わっているのを見るのは新鮮だ。
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