恋のはじまりは曖昧で

「田中って本当は真面目で純粋なんだよね。それは仕事をしている姿を見れば分かる。前は、誘われたら断るのが可哀相だからって理由で食事とかに行っていたから、チャラいって言われてた時期もあったけどね。でも、ある時を境にピタッとなくなって、ようやく目覚めたかって思ったわ」

橋本さんは、田中主任のことを心配して気にかけていたんだと言うのが言葉の端々で感じる。

「紗彩が田中と付き合ってるってことが素直に嬉しいわ。報われない片想いもあったけど、ようやく幸せを掴めてよかったなって思ってね。ずっと見てきてたから、アイツの母親のような気持ちよ」

最後はおどけたように言う。

「あの田中相手だから付き合っているのが周りに知られたらいろいろ言われるかも知れないけど、何かあったら相談してね」

「はい、ありがとうございます」

私のことも考えてくれている橋本さんに感謝の気持ちを込め、お礼を言った。

「あ、それと森川さんが言ってた田中が紗彩を構ってるって話だけど。加藤に聞いてみたらそういえば言ったかも……ってさ。森川さんが友達と加藤たちがやっているフットサルを見に来ていて、その時に『田中主任、体調が悪くなった新入社員の女の子を家まで送ってあげた』とかそんな感じのことを言ったみたい」

橋本さんが加藤さんに聞いてくれているとは思わなくて驚いたけど、話の出どころの内容が知れてよかった。
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