恋のはじまりは曖昧で

「だから、森川さんが偶然紗彩が男の人と一緒にいるところを見て怒りがわいたのかもね。他に彼氏がいるのに田中に家まで送ってもらった紗彩に嫉妬して文句を言ってきたんだと思うわ。完全な勘違いだけど」

橋本さんの話を聞いてなるほど、と納得した。

でも、森川さんの件は私の不用意な行動がいけなかったので反省しないといけない。
それと同時に、田中主任と付き合っているということは秘密にしておかないと、と改めて思った。

「何話してるんですか?」

お手洗いから戻ってきた弥生さんが座りながら聞いてくる。

「ん、弥生と浅村くんはラブラブだよねって話をしてたの」

「何ですかそれ。やめてくださいよ」

弥生さんは照れくさそうに笑う。

「上手くいってるみたいで何よりよ」

橋本さんが笑い、残っていたビールを飲み干した。
もうそろそろお開きにしようかといった雰囲気になった頃。

「あっ!そういや、変な噂を聞いたんだけど」

浅村くんが突然、思い出したかのように言う。
何だろうと思っていたら、私の方に視線を向けてきた。

「高瀬、お前って彼氏いたっけ?」

「えっ?」

「浅村、あんたいきなり何言ってんの?」

驚いて何も言えなかった私の代わりに橋本さんが割って入ってくれた。

「いや、女子社員が噂してたんですけど。道路で男と抱き合ってたとかなんとか……」

聞いた瞬間、冷や汗が出た。
< 221 / 270 >

この作品をシェア

pagetop