恋のはじまりは曖昧で
「抱き合ってないよ。男っていうのは私の幼稚園からの幼なじみで、ご飯を食べに行った帰りに、よろけたのを支えてもらっただけ。多分、それを見られたんだと思う」
「なんだよ、違うのかー。すげぇ大胆なことをするんだなって思ってたんだよ。幼なじみかよ」
浅村くんの予想と違う答えだったみたいで、つまらないといった表情になる。
信じてくれたみたいで、ひとまず胸を撫で下ろした。
「浅村、あまり変な噂に左右されるなよ。高瀬さんも気にしない方がいい」
「そうね。でも、根も葉もない噂に惑わされる人もいるから気を付けないとね」
原田部長と花山主任が口を開く。
「こういう噂はすぐに広まるけど、落ち着いて対応すれば大丈夫だから。人の噂も七十五日っていうし、万が一、その噂話のせいで仕事や日常生活に支障が出るようなら何でも言ってくれ。それなりの対処をするから」
原田部長の心遣いに感謝しながら「はい」と頷いた。
さっきから田中主任の視線を感じる。
後でちゃんと説明をしないといけないよね。
自分で撒いた種は自分でなんとかしなきゃ、と気合いを入れ直す。
今日中に話が出来るといいんだけど、と思いながらお皿に一個だけ残っていた枝豆を口に運んだ。