恋のはじまりは曖昧で
「海斗の気持ちは嬉しかったけど、私が好きなのは田中主任だから……」
田中主任以外、考えられない。
これが、嘘偽りのない私の気持ちだ。
気を張っていたせいか、いつもは恥ずかしくて言えないような言葉もすんなり言えたのが自分でも驚きだ。
「ありがとう。その言葉を聞けて大満足だよ。実はさ、広報の近藤から例の噂の写メの話は何となく聞いていたんだ」
「えっ?」
「昨日、俺らが付き合ってるってことを近藤には話したんだ。その時に高瀬さんと男が写ってるっぽい写真を撮った女がいたって言われて驚いた。だけど、俺は高瀬さんから直接話を聞くまでは信じたくなかったから本当のことが聞けてよかったよ」
「ごめんなさい。早く言わなきゃと思っていたんですけど、どう切り出していいのか分からず先延ばしにしていました」
田中主任と近藤さんは同期だから繋がってるんだ。
そんな話を聞かされていい気持ちはしなかったよね。
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「いや、謝らなくていいよ。俺は君の言葉しか信じないから」
真っ直ぐに私を見つめて話す。
そんな風に言ってもらえると思ってなくて、嬉しさが込み上げる。
私が逆の立場だったとしても、田中主任の言葉しか信じないと思う。
いや、信じたくない。
その信頼に恥じない行動をしようと改めて心に誓った。