恋のはじまりは曖昧で

「うん、まぁいっか。早くスムーズに呼べるようになって」

そう言って手を繋いでくる。

「……はい」

「あ、それといくら幼なじみとはいえ、二人きりでご飯とか妬けるんだけど」

「えっと、気を付けます」

何をだ?と自分で突っ込んでしまいたくなったけど、そんなことぐらいしか言えなかった。
だって、田中主任の口から妬けるという言葉が出るとは思わなかったから。

確かに海斗との付き合い方も変えないといけないよなと思っていたら、クスッと笑う声がした。

「冗談だよ。今まで通りでいいから。でも、幼なじみくん以外の男と二人きりの食事はダメだぞ」

手を繋いでない方の人差し指で私の額を軽くツンと押す。

「大丈夫です、そんなことはしないので」

キッパリと答えた。

他の男の人と二人きりはダメって……。
私はモテないし、それは余計な心配だと思う。

私より田中主任の方が間違いなくモテる。
仕事上の付き合いで女性と食事することもあるんだろうな。
心配だけど、そんなことを考えても仕方ないよね。
私は田中主任を信じるだけだ。

それより、名前で呼び合うだけで距離の近さを実感する。
まずは照れずに田中主任を下の名前で呼べるようになろう。

その手の温もりを感じながら、頭の中で“浩介さん”と何度も練習していた。
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