恋のはじまりは曖昧で
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「高瀬さん、頼んでいた商品の注文はどうなった?」
出先から戻ってきた田中主任が、ネームプレートを返しながら聞いてくる。
「先ほどファックスで送った後、確認取れました。明後日の納入オーケーだそうです」
「そうか、ありがとう。それで、柿沼へカタログを送る件は」
「郵送する準備は出来ています。今、持っていきましょうか?」
「いや、後で送り状と書類を渡すからそれを同封して送っといて」
「分かりました」
「仕事が早くて助かるよ」
田中主任は私と目が合うと微笑んでくれ、自分の席へ座る。
すぐに机の上に無造作に置かれていた書類を手に取りチェックを始めた。
私はさっき言われた言葉が嬉しかった。
田中主任のサポートとして少しでも役に立っているんだと実感できるだけで、ヤル気もアップする。
我ながら単純だなと思うけど、そういうのも必要なんじゃないかなと。
例の噂も自分が堂々としていれば、意外と平気だった。
それに、営業部の人たちも『いい加減な噂を信じるな』という感じでフォローしてくれているみたいで、優しい人たちに囲まれて仕事が出来ていることに感謝した。
昼休みになり、社員食堂に向かおうとエレベーターを待っていると数人の女子社員に呼び止められた。
いつもなら弥生さんたちと一緒だけど、今日は電話対応が長引き先に行ってもらっていて一人だった。