恋のはじまりは曖昧で
「高瀬さんよね。ちょっといい?」
「あの、私に何か用ですか?」
「いいからこっちに来て」
エレベーターホール横のスペースに行くように促された。
そこには自動販売機と休憩所があり、今は誰も利用していなかった。
目の前には面識のない女子社員二人。
どうして声をかけられたのか分からず戸惑っていたら、その中の一人がおもむろに口を開いた。
「あなたって、外で抱き合うような彼氏がいるのにどうして田中主任に色目を使ったりするの?」
「えっ?」
突然言われた内容に唖然とする。
この人たちはあの噂話を聞いているんだ。
「えっ、じゃないわよ。私、見たんだから。この前、田中主任と仲よさげにタクシーに乗ってたでしょ」
「それは、営業部の人たちと一緒に食事に行った帰りで……」
「あのね、田中主任は食事に行ったとしても女と一緒にタクシーに乗るとかそういうことはしない人だったのよ。それに、最近は私らが誘っても断られるし」
言葉を遮られ、最後まで言わせてもらえなかった。
さらに彼女たちは言葉を続ける。
「ちょっと同じ部署だからって高瀬さんが酔った振りでもして無理矢理お願いしたんじゃないの?」
「おとなしそうな顔して田中主任まで手を出すなんてどういうことよ。信じられないんだけど」
二人から矢継ぎ早にまくし立てられた。