恋のはじまりは曖昧で
その内容は勝手に想像している話で不愉快になるものだった。
あの噂だけならまだしも、田中主任のことまで言われるなんて思わなかった。
「何か言いなさいよ」
その迫力に後退りすると、壁際に追い詰められる形になった。
面と向かってこんなに憎しみを込めた目で見られたことがないから恐怖を覚える。
それはもう、森川さんの比ではない。
あの噂の元は森川さん発信だけど、いろいろ尾ひれがついてる。
それに、私と田中主任がタクシーに乗っているところも見られていたなんて思わなかった。
前は橋本さんに助けてもらったけど、今回は自分の力でなんとかしなくちゃいけない。
違うことは違うと訂正し、反論するところは反論しよう。
グッと拳を握った。
「あの、私に彼氏がいるということは否定しません。でも、道路で抱き合っていたということはしていないです」
本当は怖くて逃げ出したい。
でも、そんなことをしても何も変わらない。
根性見せろ!と気合を入れる。
「それに、私は帰る方向が同じだった田中主任とタクシーに乗っただけで、そのことであなたたちには迷惑をかけていないと思うんですけど」
「は?」
女子社員の人たちの目の色が変わった。
何かまずいことを言っちゃったかも知れない。
言ってしまったことは取り消すことが出来ず。
「ホント生意気ね。新入社員のくせに」
ジロリと鋭い視線を向けてきた。