恋のはじまりは曖昧で

ここは会社なのに“紗彩”と呼ばれドキドキする。
でも、田中主任は急に真剣な顔つきになり、私を真っ直ぐに見つめて口を開いた。

「あのさ、俺のせいでまたこんなことがあったら俺は自分が許せない。紗彩が傷つく姿は見たくないんだ。それだったら……」

そう言って視線を落とし黙り込む。

『それだったらって』何?

その後は一体何て言うつもりなんだろう。
流れからしていい予感がしない。

もしかして、別れた方がいいとか言うのかな?
そんなのは絶対に嫌だ。

原田部長も落ち着いて対応すればいいって言っていた。
人の噂も七十五日だと思えば我慢できるし、あんな噂に負けたくない。

田中主任は自分の名前が出たから、責任を感じているのかもしれない。

だったら、自分は大丈夫なんだということをアピールしたら田中主任も“俺のせいで”とか思わなくなってくれるかな。

「田中主任のせいじゃないですから気にしないでください。それに、元々はあの噂のせいなので。いきなり呼び止められてちょっと怖かったけど、何とか言い返せました。私って意外に打たれ強いみたいなので大丈夫ですよ」

そう言って笑顔を見せた。

「本当に?無理なんかしてないか?」

「はい。無理なんてしてませんよ。でも、そんな風に思うなら私のそばにいて支えてください」

「へ?」

田中主任は驚きの表情で私を見る。
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