恋のはじまりは曖昧で

私の反応を見て「フォローする訳じゃないけど」と前置きして言葉を続けた。

「アイツはチャラいとかいろんなことを言われていた時期もあったけど、今はそんなことはないし、根は真面目でいいヤツだから信じてやって欲しい」

「はい」

今度は力強く頷いた。
近藤さんに言われるまでもない。
私は田中主任のことを信じると決めているから。

でも、近藤さんは友達想いのいい人だ。
この前も私の件でいろいろフォローしてくれたみたいだし。

そういえば、近藤さんの言葉に気になるワードがあったけど、話しかけられたのでそのことについて考えるのをストップさせた。

「まぁ、ないとは思うけど、万が一、アイツのことで何かあったら俺んとこに言いにきなよ。ガツンと一発殴ってやるから」

右手をグーにして殴るようなポーズを取り、悪戯っ子のような顔をして笑った。
私のことを心配してそんな風に言ってくれたんだろう。
それに、最初に田中主任の名前を出したきり、そのあとは“アイツ”と言っていた。
いつ誰が会話を聞いているか分からない。
だから、周りの人に気付かれないように気を利かせてくれているのかも知れない。
些細なことだけど、その優しさが嬉しかった。

「はい、ありがとうございます」

「じゃあな」

近藤さんと別れ、営業のフロアへ急いだ。
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