恋のはじまりは曖昧で
「田中主任、安原課長から図面を預かってきました」
「ありがとう。俺の後ろの棚のところに置いといて」
「分かりました」
田中主任の机の周りは書類がたくさんあり、図面を置けるスペースがない。
言われた通り、後ろの棚に置き自分の席に戻ろうとしたら原田部長に声をかけれた。
「高瀬さん、この書類のコピーをお願いしてもいい?」
「はい。何部ですか?」
「五部ずつで、下に書いてある番号順に並べてホチキスで留めてくれるか?」
「分かりました」
書類を受け取っていると、浅村くんが困った表情で原田部長のところに駆け寄ってきた。
私はコピー機に資料をセットし、枚数を選んでスタートボタンを押した。
「原田部長、マルブロの商業施設の現場が当初の計画より押してしまっているんですけど、どうしたらいいですか?」
「工期を遅らせれないから、作業員に頼んで早出や残業してもらって進めるしかないな」
背後でそんな会話が聞こえてきた。
何かトラブルがあったのかなと、つい聞き耳をたててしまう。
浅村くんは現場を担当させてもらったと張り切っていた。
初めてのことばかりで勉強になると話していたのを思い出す。
「マルブロは元々、田中の担当だから一緒に現場に行って説明してこい。田中、悪いが浅村のフォローしてやってくれ」
そう言って原田部長は田中主任に声をかけた。