恋のはじまりは曖昧で

「田中主任、すみません」

「謝ることなんてねぇよ。いくら綿密に計画を立てていたって、現場ではいろんなトラブルが多かれ少なかれ起こる。それをうまく調整するのが俺たちの役割だ。工事なんて天候にも左右されるし、遅れた場合はどうフォローするかが鍵だからな」

「はい」

「じゃあ、一時間後に出るから準備しとけ」

コピーし終わり振り向くと、田中主任が浅村くんの肩をポンと叩いている姿が見えた。

私は営業の人の仕事はザックリとしか分からないから、会話の内容を聞いても大変だなという他人事のような感想しかもてない。
分かることは、私が思っている数倍も責任のある仕事なんだろう。
私も前に請求書の件で、一歩間違えれば会社に重大な損害を与えたかもしれないことを思い出した。
仕事は責任をもってしなくてはいけないと改めて考えさせられた。

それから、浅村くんはどこかに電話し始め、田中主任は席に戻ってやりかけていた仕事に取り掛かっていた。

先輩というのは頼りになるし、いいお手本がそばにいてくれるだけで自分の成長に繋がるんだ。

私は自分の席で書類を五部ずつまとめてホチキスで留め始めた。
書類を綴じ終わると、原田部長の席へ持っていった。
そのまま、少し休憩しようと給湯室に足を向けた。
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