恋のはじまりは曖昧で
***
月の半ばということで、仕事も忙しくないので定時で帰れた。
この後は本屋にでも寄ろう、なんて思いながらエレベーターを降りる。
会社を出たところで、女の人に呼び止められた。
「すみません。ちょっとお伺いしたいんですけど」
「はい、何でしょうか?」
その女性はスラリとした長身でマスク姿に、黒縁の眼鏡をかけている。
道でも聞かれるのかなと思っていたら、次の言葉を聞いた瞬間に警戒心を強くした。
「あの、この会社に田中浩介って働いていますよね?」
まさか、田中主任のことを聞いてくるとは思わなくてドキッとする。
それと同時に、一体田中主任に何の用があるんだろうという疑問が沸いた。
仕事上の付き合いのある人なら、まずそんなことは聞かない。
アポイントを取って会いに来るはずだし。
彼女は“働いていますよね?”と聞いてきた。
その言葉から、田中主任が働いているのか確証がないから確かめに来たということなんだろう。
「田中主任のお知り合いの方ですか?」
「えぇ。彼が高校の時からの知り合いなんだけど、あなたも知っているのね。よかったわ。ちょっと近くまで寄ったから会えたらいいなと思って。それで、彼はまだ会社にいるのかしら?」
「はい」
つい、バカ正直に答えてしまった。
田中主任はいつものように残業をしていた。
営業のフロアを出る前、図面を広げて眺めているのを確認している。
月の半ばということで、仕事も忙しくないので定時で帰れた。
この後は本屋にでも寄ろう、なんて思いながらエレベーターを降りる。
会社を出たところで、女の人に呼び止められた。
「すみません。ちょっとお伺いしたいんですけど」
「はい、何でしょうか?」
その女性はスラリとした長身でマスク姿に、黒縁の眼鏡をかけている。
道でも聞かれるのかなと思っていたら、次の言葉を聞いた瞬間に警戒心を強くした。
「あの、この会社に田中浩介って働いていますよね?」
まさか、田中主任のことを聞いてくるとは思わなくてドキッとする。
それと同時に、一体田中主任に何の用があるんだろうという疑問が沸いた。
仕事上の付き合いのある人なら、まずそんなことは聞かない。
アポイントを取って会いに来るはずだし。
彼女は“働いていますよね?”と聞いてきた。
その言葉から、田中主任が働いているのか確証がないから確かめに来たということなんだろう。
「田中主任のお知り合いの方ですか?」
「えぇ。彼が高校の時からの知り合いなんだけど、あなたも知っているのね。よかったわ。ちょっと近くまで寄ったから会えたらいいなと思って。それで、彼はまだ会社にいるのかしら?」
「はい」
つい、バカ正直に答えてしまった。
田中主任はいつものように残業をしていた。
営業のフロアを出る前、図面を広げて眺めているのを確認している。