恋のはじまりは曖昧で
今日は昼に浅村くん絡みの件があったので、自分の仕事を後回しにしていたみたいだし。
「申し訳ないけど、彼の連絡先を知っているなら連絡を取ってもらいたいんだけど」
この人、本当に知り合いなんだろうか。
失礼にならないように、目の前の女性を観察する。
背筋をピンと伸ばして立っていて、姿勢がいい。
白のブラウスにジャケットを羽織り、綺麗目のデニムを履いていて、足がすごく細いし長い。
ヒールの高いパンプスを履き、ブランド物のバッグを手に持っている。
肩までのブラウンの髪の毛が風でふわりと揺れる。
顔はマスクをしているせいでよく分からないけど、たぶん綺麗な人なんだろうというのが感じ取れた。
芸能人と言われても疑いはしないと思うぐらいだ。
眼鏡の奥のパッチリとした目が真っ直ぐに私を見ている。
知り合いなら連絡先は知っていてもおかしくない。
それなのに、どうして人に頼むんだろう。
不信感が募る。
「あの、失礼ですけど本当にお知り合いの方ですか?」
「えぇ、本当よ。町村まどかが来てるって言ってもらえると分かると思うけど」
「町村……まどかさん?」
彼女の名前を呟いた後、渋々バッグからスマホを取り出し田中主任へ電話をかける。
ここで、私の真面目な性格が災いして連絡先を知らないという嘘はつけなかった。
何回かのコールの後、田中主任が出た。