恋のはじまりは曖昧で

「もしもし、浩介?久しぶり。え、どうしてそんなことを言うの?せっかく会いに来たのに。それは私が悪かったと思うわよ。だからもう一度チャンスをちょうだい。話を聞いてくれるまで帰らないから」

そう言って強引に電話を終わらせ、私にスマホを差し出した。

「ありがと。もうすぐ浩介は来るから」

自信たっぷりに言う。
さっきまで、田中主任のことを彼と言っていたのに“浩介”と呼んだことが引っかかる。

私はスマホをバッグにしまい、これからどうしようか考えた。
本当に田中主任がここに来るのか気になるけど、私はもう用はないから帰った方がいいよね。
あれこれ考えすぎて身動きの取れない私に町村さんは話しかけてきた。

「ねぇ、あなた浩介のことを“田中主任”って呼んでたけど、彼の部下?」

値踏みするような目つきで私を見るので、警戒しながら答える。

「はい、そうです」

「そうなのね。じゃあ、最近の浩介の様子はどう?」

「どう、といいますと?」

一体、何を聞きたいのか分からない。

「だから、浩介に付き合っている相手はいるのか聞いているの。私と別れてから特定の女は作っていないって噂を聞いたことがあるから」

えっ!?
“私と別れて”って言ったよね。
もしかして、この人は田中主任の……。

「まどかさんっ」

会社から出てきた田中主任が町村さんを呼んだ。
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