恋のはじまりは曖昧で
「急に呼び出してごめんなさいね」
「いえ。それで私に何か御用でしたか?」
「ここではアレだから、場所を変えてもいいかしら」
確かに会社で田中主任絡みの話をされても困るので、すぐさま同意した。
会社近くのカフェで話をすることになった。
向かったカフェは比較的お客さんは少なかった。
町村さんはマスクを外し、コーヒーを飲んでいる。
マスク姿の時も薄々思っていたんだけど、素顔の町村さんはすごく美人だった。
平凡代表みたいな私と比べると間違いなく私は引き立て役だ。
気持ちが落ち込んでしまう前に話を切り出した。
「お話って何ですか?」
「浩介のことなんだけど、彼女がいるんですってね。話を聞いてすごく驚いたわ。その彼女ってあなたでしょ」
真っ直ぐに私を見据える。
私の出方をうかがっているようだ。
「田中主任が仰ったんですか?」
田中主任が言ってないのに、勝手に自分だと名乗ってもいいのか戸惑った。
「浩介からは言ってないわ。でも、かまをかけたらあなたの名前を出してたからね」
「何が言いたいんですか?」
私が田中主任の彼女というのを確認したかっただけなんて到底思えない。
私に会いに来た本当の目的って何?
テーブルの下で手をギュッと握りしめ、次の言葉を待った。
「私、浩介とやり直したいと思ってるの」
町村さんは強い眼差しを私に向け、言い放った。