恋のはじまりは曖昧で

「待ってください。自分のコーヒー代は払います」

私は町村さんを呼び止めた。

「結構よ。コーヒー代ぐらいで割り勘なんてみっともない。それじゃ、失礼するわ。もう会うことはないでしょうけど、浩介が私を選んでも恨まないで、自分の未熟さを思い知るといいわ」

町村さんは捨て台詞を残し、レジで支払いを済ませカフェを出ていった。

一人残されて、私はため息をつく。
何か好き放題言われた気がする。
会うことはないって、私だって二度と会いたくないよ。

話の内容や態度から、町村さんてプライドが高そうに見えた。

町村さんはやり直したいと言っていたけど、本当に田中主任のことが好きなのかという疑問が沸いた。

甘いと言われたって、好きな人のことは普通信じるでしょ。
じゃないと、誰を信用すればいいのかって話だし。

町村さんが言うように、人の気持ちが変わるということは理解できる。
だからって、田中主任は不誠実なことをするような人じゃないと思うんだ。

私は恋愛初心者だから、駆け引きなんて出来ない。
だから、単純に好きな人を信じている私はバカなのかも知れないけど……。
それでも私は自分の信念を曲げることはない。

冷めてしまったコーヒーを飲み、カフェを後にした。
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