恋のはじまりは曖昧で
恋のはじまりは曖昧で
「あれ、紗彩じゃん。偶然だな」
仕事帰り、自宅の最寄り駅近くのコンビニに入ろうとしたところで、買い物を済ませ袋を下げた海斗とバッタリ会った。
「あっ、海斗。ホントだね」
「どうしたんだよ、元気がないみたいだけど」
心配そうに私の顔を見る。
自分では自覚はしていなかったけど、海斗から元気なさそうに見えるんだ。
「いや、そんなことないと思うんだけど」
何気なく左の耳たぶを触りながら答えると、海斗は怪訝そうな表情になる。
「はい、嘘!もしかして、付き合ってる男絡みで何かあったのか?」
鋭い指摘に目を見開く。
私の表情を見た海斗は小さくため息をついた。
「俺でよかったら話を聞くぞ」
「いや、でも……」
「俺と紗彩の仲だろ。遠慮なんかすんなって!」
モヤモヤしていた私を励ますように言う。
田中主任の元カノのことを海斗に話すのは気が引ける。
でも、この調子じゃ話をするまで帰らせてもらえない気がして観念した。
「海斗、ありがと」
「いいってことよ!さっさと買い物を済ませて帰りながら話そうぜ」
海斗に促され、私はかごにおにぎりとインスタントのみそ汁を入れてレジに向かった。
支払いを済ませ、コンビニを出ると海斗が近付いてくる。
「今日は車じゃなく、歩きで悪いんだけど」
「そんなの構わないよ。私なんていつも駅からは歩きだし」
逆に海斗の運転する車には乗れない。