恋のはじまりは曖昧で

「で、どうかしたのか?」

海斗が話を切り出し、私は「大したことじゃないけど」と前置きして口を開いた。

「今日、田中主任の元カノと会ったの」

「は?」

「それで、その人は田中主任にやり直したいって言ったみたいなんだよね……」

俯き、アスファルトを見つめる。

「だから何だって言うんだ!」

海斗の言葉に驚いて顔を上げると、真剣な目が私をじっと見つめていた。

「まさか、そんなくだらないことを言われただけで気にしてるのか?田中ってヤツと今、付き合ってるのは紗彩だろ。元カノがやり直したいって言ったからってお前が揺れてどうするんだよ」

正論すぎて何も言えなかった。

「田中に元カノとやり直すって言われたのか?」

「言われてない」

首を左右に振って速攻で否定する。

「だったら気にする必要なんてねぇだろ。その元カノの思うツボじゃん。そんなことで気持ちが揺れるようなら、いっそのこと別れてしまえ。それで俺にしろよ。俺なら紗彩を不安にさせるようなことはしない」

海斗の言葉が胸に突き刺さる。
私って最低だ。

海斗は私のことを好きだと言ってくれていた。
それなのに、無神経なことを話してしまった。

話してみろと言われても、絶対に話すべきではなかった。
唇を噛み、自己嫌悪に陥る。
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