恋のはじまりは曖昧で
「何でそんな顔しているんだよ。冗談にきまっているだろ。第一、お前は元カノの言葉でひとり相撲してるだけなんだ。元カノの言葉を気にするだけ無駄だ。万が一、田中が紗彩を泣かしたら俺が黙っていないけどな。大事な幼なじみとして文句の一言でも言いに行ってやるよ」
海斗が笑いながら言う。
「そんなしょぼくれた顔なんかせず、もっと自信持てよ。どーんと構えて『お前には渡さねぇよ』ぐらい言ってやればよかったんだよ」
「そうだね。ありがとう」
私を励ましてくれる海斗に心から感謝した。
海斗が幼なじみで本当によかった。
「俺もさ、そろそろ前を向いて進もうと思っているんだ。紗彩が幸せじゃねぇと俺も安心できないだろ。だから、『海斗に心配してもらわなくても大丈夫!』ってぐらいの幸せオーラを振りまいてくれよ」
私の背中を押してくれる海斗の優しさに甘えるばかりしたらいけない。
私はキッパリと言い放った。
「うん。もう大丈夫だよ」
「そっか」
海斗は満足そうに笑い、その後は世間話をしながらマンションまで送ってもらった。
部屋に入り、着替えを済ませた。
そして昨日と同様、コンビニで買ったおにぎりとお湯を注いだインスタントの味噌汁をテーブルの上に置いた。
「明日からちゃんと自炊しないといけないな」
おにぎりの袋を開けながら呟いた。