恋のはじまりは曖昧で
急いで玄関に駆け寄りドアを開けた。
「こんばんは。どうぞ」
部屋に招き入れ、座ってもらうように促すとテレビの電源を消した。
「こんな時間にごめんな」
「いえ」
そこで会話が途切れる。
お互い無言になり、田中主任もどう話を切り出していいのか考えているといった雰囲気に見えた。
いつも田中主任が話の突破口を開いてくれるので、今回は私がという思いで話しかける。
「田中主任、晩ご飯は食べられましたか?」
張り切って話しかけた割りにはたいした内容ではないし、あまり広がりそうな話題でもない。
ホント下手くそすぎる。
もっとコミュニケーションスキルが高ければ……と心底思った。
「あぁ。簡単に倉井と済ませた」
「そうですか。あの、コーヒーでも飲みますか?」
「いや。紗彩、話があるからこっちに来て」
田中主任が手招きする。
それに従い、ラグへ並んで座った。
しん、と静まり返った部屋に緊張感が高まる。
それは田中主任も同じみたいで表情が硬く、小さく息を吐いた後、おもむろに口を開いた。
「あの人のこと、ちゃんと説明するから聞いてくれるか?」
「はい」
真っ直ぐに田中主任の目を見て答えた。
教えてくれるなら聞きたい。
その反面、元カノの話は知りたくないという複雑な気持ちが入り混じる。