恋のはじまりは曖昧で

でも、聞かずにモヤモヤしたままにはしたくなかった。
田中主任は静かに話し出した。

「あの人……、町村まどかは俺が初めて付き合った人なんだ」

「え、」

まさか、初めての彼女とは思わなかった。

ふと、前に橋本さんから田中主任は恋愛に関してトラウマがあると言っていたのを思い出す。
もしかして、町村さんが関係してるんじゃないかな、と根拠はないけどそう感じた。

「俺が高校一年の時に初めて彼女を見た。彼女は三年生で、マドンナと言われていて男子学生の憧れの存在だったんだ。俺も人並みに綺麗な人だなとか思って。学年が違うから接点なんかなくて、話をすることもなく彼女は卒業した。それから彼女のことは特に思い出すこともなく、俺も二年後に高校を卒業した。だけど、偶然にも彼女とは俺が入学した大学のサークルで会ったんだ。しかも『高校、一緒だったよね』と話しかけられたんだ。まさか、高校時代のマドンナが俺を知っていてくれたことが嬉しくて浮かれていた。そして、何度か話しているうちに彼女から好きだと言われて、最初は信じられなかったけど断る理由がなくて付き合うようになった」

やっぱり田中主任の口から元カノの話を聞くのは胸がチクリと痛み、嫉妬してしまう。

耳を塞ぎたいけど、それをぐっと堪える。
田中主任は淡々と話を続ける。
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