恋のはじまりは曖昧で

「彼女は大学四年になる直前、スカウトされたとかで読者モデルの仕事をするようになったんだ。正直、読者モデルの仕事をする前もそんなに頻繁に会っていた訳じゃないけど、さらにすれ違いが続いて。それでも俺は彼女のことを信じていたし、モデルの仕事も応援していた。でも……」

そう言って言葉を詰まらせた。
読者モデル……。
だからマスクをしていても綺麗だったんだと昨日の町村さんの姿を思い出し、納得した。

今も活動しているんだろうか?
私が読んでいる雑誌とかには載ってないからよく分からないけど。
って、思考が横道に反れそうになるのを食い止め、私は田中主任の次の言葉を待った。

「モデルの仕事を通じて知り合った男と浮気していたんだ。年下の学生だった俺はアッサリ捨てられたよ。というか、俺に声をかけてきた時から他にも社会人の男と付き合っていたと、後から周りの友達から聞かされて絶句したけどな。一体、何股してるんだって話だよ。あの女はさ、地位も金も持ってる男しか興味なかったんだよ。俺は単なる暇つぶしの遊び相手だったんだ」

自嘲気味に笑う。
さっきまで町村さんのことを“彼女”と言っていたのに“あの女”に変わってる。
町村さんに対して、かなりの嫌悪を抱いている感じがした。

でも、好きだった彼女に裏切られ、田中主任はどんな気持ちだったんだろう。
私は田中主任をこんな表情にさせた町村さんに怒りを覚えた。
< 259 / 270 >

この作品をシェア

pagetop