恋のはじまりは曖昧で
自分でも気付かないうちに表情に出てしまうなんて最悪だ。
会社ではいつも以上に気を付けないといけない。
始業時間になっても部長たちは会議室から出てこなかった。
片岡さんから今日は朝礼はないから仕事を始めましょうと言われ、仕事に取り掛かった。
目の前の電話が鳴り、受話器を左手で持ち上げた。
極力、スリーコールまでには電話に出てと言われている。
「はい、花山株式会社です」
『三田村建設の権藤ですけど、原田部長はいらっしゃいますか?』
「原田ですか?只今、会議中なんですけどお急ぎでしょうか?」
『いや、急ぎではないんですけど』
「そうですか。では、会議が終わり次第、こちらから連絡いたしましょうか?」
『そうしてもらえるとありがたい』
「すみません、失礼ですけどお電話番号は」
『携帯を知ってると思うから、』
「分かりました。三田村建設の権藤様ですね。会議が終わり次第原田に伝えておきます」
マニュアル通りに電話対応する。
たまにイレギュラーな場合もあり、臨機応変に対応するスキルが求められることがある。
相手の連絡先とか必要最低限のことを聞いておかないと後々面倒なことになると叩きこまれている。
電話対応の時は必死に頭をフル回転させる。
情報を聞きそびれた時、営業の人も困るし、相手の人にも迷惑をかけてしまう。
電話一本でもかなり気を遣っている。