恋のはじまりは曖昧で
「あのね、それとこれとは別なんだよ。私はイケメンを見て目の保養がしたいの!」
薫は力説しながら、パスタをフォークに巻き付け口に入れる。
まぁ、確かに営業は若い男性社員が多い。
だから何だって言うんだろう。
会社には仕事しに来てるのであって、イケメン目当てに来るところじゃないと思うんだけど。
薫のミーハーっぷりに思わず苦笑いした。
「何々、何の話?」
声をかけてきたのは浅村くんだ。
ハンバーグ定食をテーブルに置き、私の隣に座ってきた。
さすがに営業部の上司の話をしていたなんて言えないよな。
目の前の薫を見ると、何食わぬ顔をして口を開いた。
「えー、浅村くんが年上のお姉さま方に人気だって話をしてたんだよ」
「マジで?」
薫の言葉に浅村くんが目を真ん丸に見開いて驚いている。
本人はあまり自覚がなかったみたいだ。
「可愛いワンコ系だって」
「それ、全然嬉しくないんだけど」
口を尖らせながら言うその表情は、確かに同い年だけど可愛く見える。
これはあざと可愛いってやつなのかな。
それにしても、薫は空気が読めるというか、場の雰囲気に合わせた話が出来るのがすごいと思う。
「もっと大人の男を目指して頑張ろうっと。目指せ、原田部長!」
そう言って宣言する浅村くんに私と薫は顔を見合わせて笑った。