恋のはじまりは曖昧で
「先方に今月は支払い出来ないと言われたよ」
それを聞いて真っ青になり、ガタガタと足が震えて立っているのがやっとだった。
「高瀬さん、君のミス一つで会社に損失を与えてしまうこともある。それに会社の信頼も損ねてしまうんだ。今回はまだ二十万ちょっとの請求金額だったからよかったけど。うちはね、一千万以上の取り引きだってしているんだ。間違えました、すみませんの一言じゃ片付けられない場合もある」
「はい……、すみません……」
声を絞り出し、頭を深々と下げる。
「高瀬さん、請求書は決して間違えてはいけない。指定請求書があるならそれに従わないといけないし、必着があるなら守らなければいけない。分かるよね?」
「はい」
「高瀬さんは花山株式会社の営業事務として責任を持って仕事をしてもらわないと困る。経理には俺から話をしておくから二度と同じミスはしないように」
「はい、すみませんでした」
もう一度、深々と頭を下げ、自分の席へ戻る。
隣の浅村くんからの視線を感じるけど、今の私はそれに応じられる状態ではない。
「片岡さん、来月もう一度指定の請求書を出しておくように」
「分かりました」
部長たちのやり取りが聞こえ、情けないやら申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
もしも、請求金額が高額だったら……そんなことを考えただけでゾッとする。