恋のはじまりは曖昧で
こんなところで泣いちゃダメだ。
泣かないように堪えていると、ガタッと席を立つ音が聞こえ、肩に手が添えられた。
そのまま私は田中主任に抱き寄せられていた。
一気に田中主任のスパイシーな香りに包まれる。
その瞬間、金縛りにあったみたいに身体がピクリとも動かない。
私の心臓はあり得ない速さでドクドクと音を立てている。
「泣きたい時は泣いていいから」
ポンポンと私の背中をあやすように優しくさすってくれる。
それをきっかけに、今まで塞き止めていた涙が零れ落ちた。
「……ッ、」
「そうそう、我慢せず思いっきり泣けばいい。溜め込んでいた感情を吐き出すとスッキリするよ」
田中主任のあたたかな腕の中で泣き続けた。
ようやく落ち着き、鼻を啜りながらお礼を言った。
「田中主任、ありがとうございます」
主任は小さく首を振り、ハンカチを出すと涙で濡れていた私の頬に添えた。
「誰だって失敗することはある。もちろん俺もね。人は一度、失敗するとその怖さを知る。だから慎重になり同じことを繰り返さないよう気を付けることが出来る。失敗を経験しそれを乗り越えることにより成長していけると思うんだ」
田中主任の言葉を心に刻みながら頷く。
「二度と同じ失敗をしないように気を付けます」
「そうだね。それと、困った時は助け合いも大切だから覚えておいて」
念を押すように言われ、「はい」と頷いた。