恋のはじまりは曖昧で

返事をしたあと、改めて田中主任を見ると、ワイシャツが私の涙で濡れていて、しかもファンデーションが付いている。

「あっ、主任!ワイシャツが……」

「あー、ついてるな」

「すみません!弁償します」

これはクリーニングに出さないといけないよね。

いや、それとも新しいのを買って返すとか。
ワイシャツがいくらぐらいするのか分からないけど、私の給料で払えるかな?

食費を削ってでも何とかしなきゃ。

「大丈夫大丈夫、上着を着れば分からないから気にしなくていいよ」

「でも……」

「俺のことはいいから。仕事があるだろ。あ、でもその前にメイクを直した方がいいかもな。可愛い顔がちょっと残念なことになってるから」

気にするなというようにポンポンと私の頭を撫でてクスリと笑う。

ホントに何気ない言葉だと思う。
だけど、主任に可愛いと言われ、しかも頭ポンポンまでされて顔が真っ赤に染まった。

それにしても、営業のフロアに戻るのはちょっと勇気がいる。
どんな顔してればいいんだろう。

「さ、俺の話はこれでお終い。部長に怒られて戻るのが気まずいとか思ってるかも知れないけど、みんな何度も部長に怒られたりしてるから気にすることはないよ。むしろ、俺らの方がこっ酷く怒鳴られたりしてるから高瀬さんなんて怒られたうちに入らないよ」

クスクス笑いながら主任は私の考えていたことを見透かしたように言う。
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