恋のはじまりは曖昧で

だけど、井口さんはこの中では一番の毒舌とも言われている。

独身組の三浦さんと井口さんと西野さんによく食事に誘ってもらったりしてお世話になっている。

そんなことより、西野さんたちの会話が気になりつい聞き耳を立ててしまう。

「ですよね!部長の鬼バージョンのフォローはいつも主任がしてたから対応が素早かったですね」

「まぁ、部長はそれを見越して怒ったりするからね。締めるところは部長が締めて、主任は優しく包み込むって感じよね」

「ほら、無駄話ばかりしていないで仕事しなさいよ」

片岡さんに注意され、西野さんたちは肩を竦めながら自分の席へと戻っていく。

私も早くメイクを直してこなくちゃ。
歩いていたら会議室が視界に入り、ここで田中主任に抱きしめられたことを思い出してしまった。

ブルッと頭を振り、その記憶を追い払い足早にトイレに向かう。

泣きそうになっていた部下を慰めようとして、あんなことをしただけで他意はない。
田中主任は優しくてカッコよく仕事も出来る。
だから絶対に彼女がいるに決まってる。

ん?
自分で考えたことなのに、なぜか心に引っ掛かるものがあった。
その正体が分からずモヤモヤしてしまい、自分の中の不確かな感情に戸惑っていた。
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