恋のはじまりは曖昧で

昼ご飯を食べ終え、営業のフロアに戻って仕事をしていたら片岡さんに呼ばれた。

片岡さんというのは、私の指導係で二児のママ。
入社して右も左も分からない私に細かい部分まで教えてくれる。
優しく、時に厳しく。
私が今、一番頼りにしている先輩だ。

「高瀬さん、申し訳ないんだけどおつかいを頼まれてくれない?」

「おつかいですか?」

「そう。今、営業みんな出払ってて頼める人がいなくて。あのね、田中主任から連絡があってこの封筒を現場に持って行って欲しいの。住所はここに書いてあるから」

片岡さんにメモ用紙を渡される。
それには現場名と住所が書かれてあった。

片岡さんをはじめ営業事務の人も忙しそうにしているので、おつかいは比較的手が空いている私が適任なんだろう。

「分かりました」

「もし、タクシーを使うなら領収書を忘れずにもらっといてね」

「はい」

封筒とメモ用紙を受け取り、自分の席に行き机の一番下の引き出しからバッグを出す。
連絡が取れないと困るから、田中主任の携帯番号をメモ用紙の空いている部分に書き込んだ。
それを財布の中にしまって営業のフロアを出てエレベーターホールへ足を進めた。

会社を出て立ち止まり、ふと考えた。
あの現場の住所はさっき調べてみたら駅の近くだったから、タクシーを使うより電車で行った方がいいかも知れない。
私は駅に向かって歩き出した。
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